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#2 麻布流儀インタビュー「インダストリー4.0 その最前線で」<前編>

麻布流儀編集部
麻布流儀編集部
date:2018/1/30
#2 麻布流儀インタビュー「インダストリー4.0 その最前線で」<前編>

麻布流儀インタビュー2回目は今、日本の製造業では誰もが知っているという有名人で、日本のインダストリー4.0を牽引する麻布OBにインタビューいたしました。

麻布→東大→バークレー校MBA取得→ベッコフオートメーションの日本法人社長と輝かしい経歴の上、まさに日本の産業界でインダストリー4.0といえばこの人!川野俊充さんです。川野さんは内閣官房で数回に渡り、インダストリー4.0や製造業でのAI活用についてアドバイザーを務めるなどまさにこの業界の第一人者です!そんな最前線の麻布OBにお話をお聞きします今回は前編・後編の2回に分けてお送りいたします。

*上記のサインは川野さんの直筆です。

 

I4.0(インダストリー4.0)という言葉をご存じでしょうか? 

もともとは2011年に発表されたドイツ政府が推進する製造業のデジタル化・コンピューター化を目指すコンセプト、ドイツの国家的戦略的プロジェクトのことです。 なんだ、ドイツの話か。そんな風に思った人はちょっと産業界に疎すぎますね(笑)

「インダストリー4.0」という言葉はともかくとして「IoT」「AI」などの言葉はさすがにご存じだと思いますが、日本の産業界にもこの波は押し寄せていて、工場のあり方がまさに変わろうとしています。

丁寧に説明しておきますと、IoT とはInternet of Thingsの略で、センサーやデバイスがインターネットを通じてクラウドやサーバーに接続し情報交換することで相互に制御する仕組みのことです。AIとは人工知能のことで、昨今よく耳にしますね。

インダストリー4.0は、生産工程のデジタル化・自動化・バーチャル化のレベルを現在よりも大幅に高めることにより、コストの極小化を目指すというものなのでまさに、このIoTAIによって工場自体が「自ら考える工場(スマート工場)」として自動化していくというもので、ドイツ発のこの流れを日本でも注目されていて、大手を中心に工場のIoT化の波が進行しているところです。 20164月のハノバーメッセでトヨタ自動車が同社の工場内で使用する産業用ネットワークとしてEtherCATを全面的に採用することを発表し注目が集まったのですが、まさにインダストリー4.0の動きです。

ここで出てきました「EtherCAT」というイーサネット(Ethernet)と互換性のあるオープンなフィールドネットワークを開発したドイツのベッコフオートメーション。その日本法人の代表取締役社長の川野俊充さんが麻布の卒業生で、川野さんはインダストリー4.0というと日本ではこの人!と必ず名前が出てくるこの業界の有名人なのです。

麻布→東大→米バークレー校MBA取得→ベッコフオートメーションの日本法人の代表取締役社長就任ととにかく輝かしい経歴の川野俊充さんに、インダストリー4.0並びに麻布についてなどなど様々な話題についてインタビューしました。 


川野俊充

1992年、麻布高校卒業。1998年、東京大学理学部物理学科卒業後、日本ヒューレットパッカード社入社。

2003年、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院経営学修士(MBA)を取得。 

日本ナショナルインスツルメンツ社を経て、2011年よりベッコフオートメーションの日本法人の代表取締役社長に就任。

2017年より在日ドイツ商工会議所理事。

 

 

 

 

 

 

インダストリー4.0とは結局なんなんですか   

前田「インダストリー4.0については様々なところでインタビュー並びに講演などゲストスピーカーとして話されていますし、ネット検索すれば色々知ることができると思うので、ものすごい難しすぎる話はそちらに譲ってしまって(笑)せっかくなので、川野社長からわかりやすく説明してください。同期のよしみで、ここからはタメ口失礼します(笑)」 

川野「インダストリー4.0は、もともとドイツの国家戦略。ドイツも日本と同じで製造業が強く、良い職人さんによるモノ作りが強みで、世界にいろいろなものを輸出してきた国なんだよね。たとえば自動車もそうだし、工芸品とかもドイツといったら有名で一流。ただ昨今IT企業とか、クラウド企業とかが台頭してきて、ビッグ4と呼ばれるGoogleAppleAmazonFacebookは、みなクラウドの上でバーチャルなビジネスが中心なんだけど、最近色々なロボット企業を買収したりとか、それこそ製品を自動走行でドローンで運んでみたいな、リアルの製造業に近いビジネスを始めてきているのは周知の通り。このままだと、製造業がITジャイアント企業に飲み込まれるんじゃないかという危機感があって、それで2011年くらいに国が絡んで動き始めた。ドイツは製造業を守っていくのか、製造業の競争力を維持していくのか、高めていくのか等々。ITの進化・進歩は、それはそれで享受すべきだが、一方製造業の強みは守っていくべき。製造業やものづくりにITの力をうまく借りて、FA(ファクトリーオートメーション)とITの融合とは良くいうけど、融合することで全体としての生産性を高めようと動いたのがインダストリー4.0なんだよね」

前田「ふむふむ、素晴らしく、分かりやすい説明です。ただ製造業のIT利用や自動化なんて別にインダストリー4.0からではないのでは?」

川野「そうだね、結局何がいままでと違うのってところを話しましょう。一言でいうと、『マスカスタマイゼーション』です。日本語では変量変種生産と言ったりする概念なんだけど、いままでは製造業って同じものを大量生産することで、コストも安く、納期も短く、品質も高く、というのがものづくりの一般的なやり方でした。だからカスタマイズ品なんていったら時間もかかるし、コストが高かったよね?インダストリー4.0では、一品物のカスタマイズ品でも量産品と同じコストや納期や品質で届けられるようにものづくりの仕組みを考えれば、同じものを作っていても付加価値も上がるし、生産性もあがるし、世の中変わるというところに着目したことかな。カスタマイズ品というのは手作りしなければいけないし、オプションを全部変えたり色を変えたり、デザインを変えたりとかすると、時間もかかるしすごい高いし。でもやっぱり自分仕様だからとても嬉しいみたいなものだったでしょ。もしそれが量産品と同じ価格で出来たらこれ嬉しいじゃんというシンプルな考え方で」

会田「安いの嬉しいです。カスタマイズ品大好きです」

 

 

I4.0の具体例として「ハーレーダビッドソン」

川野「でも、それを技術的に実現するには今までと同じ大量生産の自動化ラインを使うだけでは当然できなくて、そこにITの力を使っていきましょうと。いろんな事例あるんだけど、ハーレーダビッドソンの例にしましょう。アプリをダウンロードして、バイクのベースモデルを選んで、タンクのデザインだとか、色だとか、フェンダーのオプションだとか、まさにレーシングゲームで自分が運転する車をデザインするみたいに選ぶと、選ぶたびにそれがいくらになるか、どれくらいの納期になるかがその場で分かるんです。ある程度自分のカスタマイズ品が作れちゃう。ちょっとハーレーは高いからクレジットの限度額クリアする人は少ないかもだけど(笑)、限度額さえクリアできればクレジットカードで買えちゃう。デザインしている間に情報はすべてクラウド越しに工場に送られて、こういうデザインや色の部品がいつどこでどれだけ必要か、リアルタイムに積算する。部品単位でトレーサビリティ(品質マネージメントとしてその在庫などの追跡履歴)が取れるようになるから、この部品はいま生産工程のどこにあるだとか、いつごろまでに組み立てが終わりそうだとか、商品はまだそこまで作ってないから、今だったらまだこのデザイン変えられるよっていうのを注文者まで情報を戻せる。やっぱり気が変わったとか、そういう気まぐれにも対応可能になるんだよね。これはバイクの例だけど、ドイツで有名な事例はシステムキッチンだね。お母さんの気が変わったとか、子供が反対したから引き出しの数変えるだとか、蛇口をもう一個増やしたいとか。もちろん制約はあるけれども、一旦発注した後でも、デザイン変えられるというのがものすごく受けたんだよね」

参考/画像は現在のものではありません

前田「このいま見せてくれているハーレーダビッドソンの事例は実際にやっているの?」

川野「実際にやっているの。実現しちゃった例だね。なんでハーレーが出来たかっていうと、すべて内製だったからかな。もともとカスタムメイドのバイクを作るっていうところに近いものづくりをやっていたからだね。そういうことをやる素地があったというのと、ほぼ全ての部品とか、コンポーネントを自社で生産しているのと、やっぱり流通網とかも自社で持っている。他社とつながったりとか、他の業界と連携しての情報標準化をそんなにしなくても自社で完結できた、というのがあるんだけれど、そういうところかな。あと、単価が高いからできたんだと思う。最初こういう仕組みを作るのって設備投資がすごくかかるよね。それをやってでも利益が出るような高級品だという背景があったからだね。結局こういうのは一回出来てしまうと、仕組みそのものが、ITと工場のファクトリーオートメーションをつなぐ事例になる。この事例を他の商材とか、業界だとかに横展開していくとか、自動車業界でやるならどうするとか。さらに言うならば、小売店も関係してくる。物流や小売店もつないで、メンテナンスでディーラーに戻ってきたらその瞬間に、いつどこでどういう部品が付けられたか全部わかります、みたいな。ちょっと空気圧を見て欲しかっただけなんだけど、そろそろこのパーツも変えた方が良いですよ、なんてことを教えてくれるとか。そういうのが色々な業界が使えるだろうということで、今までこういうことは出来なかったし、パソコンとかでもBTOBuild To Order)である程度いろんなスペックを組み合わせたりとか選択できたんだけど、それって3つくらいのオプションから選ぶとか、そのくらいの自由度しかなかったよね。これは本当に全てのパーツを自分で選べるという自由度があって、自分で設計しているという気分に近づくので、愛着も増えるし、いやあちょっと高くなるけどでもいっか!という気になってくる。それでいて、納期が何倍になるとかではなく、ちゃんと品質も担保されますとかを、ITの力を借りてやっていきましょうということだね。バイク業界だけではなくて、ありとあらゆる業界で、サプライヤーと工場がつながったりとか、物流につながったりとか、輸出入の手続きとか、オンラインでつながって、世界中に広めていきましょうというのが、4.0の構想だね」

会田「お客さんがやっぱり色変えますとなったらその情報は工場の生産ラインのところまでリアルタイムに届くことになっちゃうの?」

川野「どのくらいリアルタイムかっていうのは当然あるし、お客さんからの情報を生産ラインが待っているというよりは、ある程度貯めて、逐次この注文は工場のこのラインのこの機械に落としこんで行こうとか、ここらへん今いっぱいだから中国の方に情報を飛ばして作った部品を送ったほうが納期短くなるとか、計算しながらだね。だから、リアルタイムというよりはオンデマンド的に、どこで何作るとか、どういう順番にするかとか、そろそろこの機械で使っている金属の材料が足りなくなりそうだから自動的に発注しようとか、いままでみな匠の人手で、メモ書きをしながら手配したりとか。需要予測や稼働率を見てたんだけど、全自動にしてしまえば、そもそも人的ミスが減るし、それこそ24時間稼働できるしね」

 

 

人不足の課題もテーマ

前田「ハーレーをいままで売ってた営業マンとかが職が奪われたりとかありえるよね?」

川野「そういう話はいっぱいある。営業マンだけではないなぁ。それこそ現場で工作機械で匠のチューニングをしていた職人さんが、全部そういうのはオートチューニングされるようになると、自分たちの仕事なくなるじゃないのかという話は山ほどあって。結論としては、人に求められる仕事の質が変わってくる。よりクリエイティビティが求められるようになってくるというだけで」

前田AIに仕事が奪われるって話は昨今よく耳にする話題だよね」

川野「ドイツも日本と同じ高齢化社会なので、人不足の課題もテーマなんだよね。それこそ食品工場とか行くと、3交代で延べ3,000人くらいで、食品を包装したり、お弁当詰めたり作業してる人たちが沢山いて、人なのにロボット的な仕事をする必要があるケースが多いので、だからやっぱりそういう人たちはより人間的なというか、とにかく作業でしかないものはロボット化とか自動化していきましょうと。もっと考えたりとか、想像力とかクリエイティビティを出していくとか。さっきのオートチューニングはある程度出来るようになってきているけど、より早くできるとか、より品質が高く出来るような加工法を見出したりとかは、人じゃないと出来ないので、そういう付加価値の高い仕事を人間はやっていくということかな。決してなんでもかんでも人をAIに置き換えちゃおうってことではない。これから人口も減っていくし、高齢化していくし、技術も伝承とか継承とか時間もかかるし、人不足の来たるべき将来に備えてデジタル化しておくべきところはやっておこうという考え方だね。さらには、作業をやるだけで仕事ができていた人達は、きちんと時間的な余裕を作って、教育の機会を与えて、付加価値の高い仕事を出来るようになりましょう、という考え方も。もともとこういうカスタマイズも、もとのデザインがないと始まらないし、デザインをゼロからAIが作り出すのは難しいので、そもそものデザインを出来る人を増やしていこうとか。人の仕事を奪うという文脈では実際に組合からすごい反発があったし、これは技術的な話というよりは、政治というか、政策の一つとしてやっているのは正しいアプローチだと思ったね。だから、でもやっぱり必要だろうと、不可欠な課題だということで、いま日本でも注目されているのだと思ってる」

 

 

楽しいインダストリー4.0のお話

会田「第四次産業革命なんて言われたりしているけど、本当にドイツでは政策なのだと聞いてて実感しました。こう聞いていくと分かりやい話なんだけど、やはり難しいテーマがあるんだなぁと。インタビューとしてもちょっと固くなってきてしまったので、ここいらでちょっと楽しい話というかもっとリアルなインダストリー4.0の話を聞きたいなぁ」

前田「それでは、インダストリー4.0の楽しい部分というか、川野が体験したもので、これはすげぇ!というものはありますか?」

川野「やっぱりAIだね。AI、うん。AIは、やっぱり触ってみると分かるんだけど、なんかね、人間の子供みたい。いま、デンソーとか、AIのベンチャーと組んでやっていることがあるんだ。VRで教えてあげると、AIが動作を覚えてくれるというロボットを一緒に作ってるんだよ。学習がうまくいかないとフラフラしちゃったりとか、それこそトチ狂って自分の手首折っちゃったりとか、子供だって歩けないうちは転んで怪我しちゃうのと同じで、なかなか思い通り学習が進まなかったりして。コツをつかんだり、教え方を変えたり、教えるデータの中身そのものを綺麗に学びやすいものにしてあげたりとか、工夫をするとちゃんと学んでくれるようになってきて、なめらかに動くようになってくる。そうすると、おお!成長したなあ!みたいな、もうほとんどね、機械じゃないような、感情が芽生えてくるっていうのがすごいなあって」

会田「どの部分に川野は関わってたの?」

川野「全体のとりまとめかな。座組としては、メカ・体のところはデンソー。VRのところはVRのベンチャーBOX VRさん。AIは早稲田大学の尾形先生と、尾形先生がアドバイザーになってるエクサウィザーズというベンチャー企業、あとハンドの部分で、ティーチングをするための触覚デバイスはイクシーという東大発のベンチャーだね。いろいろ考えて判断するような認知系の処理と、反射神経的に危ないと言ったら止めるような神経系の処理、両方の処理をベッコフのコントローラーに実装して、一つのシステムにしたっていう感じなので、異なる分野の計7社が、それこそ『こういのやりたい!』って言って、集まってきてくれたんだよ」

前田「開発の部分の中心にいるわけだね、つなぐ間の部分として」

川野「うちの製品のようなコントローラーって中身は単なるパソコンだけれども、インテリジェンスを実装するにはソフトウェアが必要。ハコだけでは意味がなく、自社だけでは賄えないソフトウェアは全部外から集めてくる必要がある。最初になんかこういうことやりたいなあと思って、いろんな所で講演しまくったりとか、飲み会しまくったりとかしていたら、ポツポツと、それ面白そうだから、うちもちょっとやってみたいなあって集まってきてくれたんだよね」

会田「このプロジェクトのきっかけはなんだったの?」

川野「インダストリー4.0の講演を昨年6月に精密工学会というのに呼ばれて話したんだけど、その時、早稲田大学の尾形先生が研究されているAIロボットの動作原理を解説するという講演があって、これを聞いて衝撃を受けたわけですよ。まさに、これだと!!ロボットの未来はこれだと!AIをロボットに使うというのはこういうことなんだっていうのをすごい感銘を受けて。で、その講演後すぐ会いに行って、是非やりたいですって言って。産学連携で一緒にやりませんか?とお願いしたら、研究室はいま学生さんたちが忙しいので、尾形先生がアドバイザーを務めているAIのベンチャーを紹介してあげると言ってくれて。さっきの図のエクサウィザーズという会社を紹介してくれて。それから、頭だけでは、体が無いとダメだから、昔から付き合いのあったデンソーさんにぜひ一緒にやりませんか?って言って。とにかく尾形先生にお会いしたのがきっかけですね」

会田「感銘を受けたのはどういった部分?」

川野「いままでAIって、将棋をやったりとか、囲碁をやったりとか、画像処理をやったりとか。100万枚画像を見せたら猫が分かるようになったとか(笑)。なんか、まあそうだけど、そんなに役に立つのかなあ(笑)って。囲碁とかすごいけど、生活に大きな変化を与えるようなものかって言ったら、技術的にはすごいけどそうでは無いかなって思ってたんだよね。そこに身体があるロボットを動かす原理としてAIが使えるんだってということを知って「キター!」と(笑)。SFではなく、理論的にしかもすごく分かりやすく説明してくれて。AIはぜんぜん知らなかったんだけど、それを聞いて、これだったら本当に出来るかもしれないなっていう風に直感したっていうか」

前田「鉄腕アトムが好きだった僕としては、イメージではロボットとAIって同時というイメージだったんだけど、バラバラなんだ!」

川野「そう!ぜんぜん別。尾形先生は実は業界ではロボット工学も出来て、AIも研究しているという、両方研究している恐らく唯一の人で。だいたいね、AI学会とか行くと、なんだロボットのやつらは、とか(笑)。ロボット学会行くと、AIなんてって言って(笑)。お互い犬猿の仲で。尾形先生はいい意味で異端の方だったんだけど、いよいよ技術的に両方が融合できるようになってきて、今まで理論的にはそうかもしれないけど、実際やると時間かかりすぎるとか、コストかかりすぎるとか、パフォーマンス出ないとか」

前田「AIとロボットなんて同義だと思ったのに意外だよ!」

川野「ちょっとこの動画を見てもらおうかな。汎用技術の組み合わせでも、AIで直接ロボット動かすっていうのが出来るようになったのはまだ最近なんだよね。この動画は、何やってるかというとカメラから映像を撮ると、自分がこれを見てる時には腕はこういう姿勢にするべきで、指はこういう角度をとるべきで、次に時間が進むと、それぞれ関節の角度をどう動かすべきかを、時系列の姿勢として覚えているのね、自分の見てる映像と関連させて。だから、これはタオルを畳むという簡単な作業なんだけど、自分が作業をして、タオルの形や見え方が変わると、お!変わった!じゃあオレは次こういう形をしなきゃいけないっていうのが連続していく。次は右手で持ってとか。この動画は実際展示会に出す前夜のもので、ここで上手くいかなかったらヤバいっていう時のものなんだよね(笑)我々が少し意地悪して、タオル戻したりすると、AIが、あれ!おかしい!って(笑)。あ、でもこの形知ってるから、ここまで腕を戻して続きやれば出来るはずだとか。動画の中で皆んなが、『いい子!いい子!』って呼んでますね。もうほんとね、みな自分の子供くらいに思ってるわけ。開発期間3ヶ月くらいなんだけど、知能としては3歳児未満というか、チンパンジーよりちょっと上かなっていう位。でも、3ヶ月でここまで出来るってことは、結局この後いろんな行動を教えてあげれば、いくらでも学習できる。そのうち二十歳くらいのインテリジェンスになったらいよいよ現場にデビューも出来るだろうと。今までは全部プログラミングをしないとロボット動かせなかったのが、このやり方では人間の行動を教えてあげると、自分の学習した時間軸に沿って、間違っちゃったとか、戻っちゃったとか、結構ちゃんと気がついている。これがAI×ロボットの先端だね。もちろん、自分の学習した範囲内でしかインテリジェンスというか、ロバストネスが無いんだけどね。つまり想定外の環境変化に対応できるのはロボットが学習の過程で経験している時間軸の周辺だけなんだけど、全ての状況を場合分けしてプログラミングする必要があったこれまでのロボット制御の世界とは全く次元が異なる」

 

 

麻布的発想から進む日本のI4.0

前田「これはいまこういう研究開発をするために皆組んで集まっただけ?それとも実際に最終的にどんどんリリースしていこうぜみたいな所まで行ってるのかしら?」

川野「最終的にはやっぱりビジネスにしていこうとか、当然の目論見はあるけれども、まだ三歳児だし、実際に売れるのは成人のパフォーマンスとインテリジェンスがないと売れないから、もう少し進めていくなかで、どうビジネスにしていくか見えてくるのかな」

前田「この辺のことってのは、ドイツの本社から来た流れっていうよりは、いま日本で川野が自分でやってるってことなんだよね?」

川野「当然インスピレーションは身近な顧客やパートナーから得た上で、後は勝手に(笑)。そういうのは、わりとこう麻布的ていうか、とりあえず面白いからやっちゃえみたいな(笑)。もう一つ動画を見てもらおうかな」

 

川野「これは実際に動作を教えているところで、いまヘッドマウントディスプレイをかぶっているのが山浦さんさんというロボットハンドの部分を開発したイクシーというベンチャーの社長さん。だいぶ動くようになったから一回見てくださいよってお願いして、名古屋に来てもらって、生まれて初めて遠隔側のロボット操作してるわけ。ロボットについてるカメラから見えてる映像がこれで、彼にはちょうどロボットが見てる視点が見えてて、モビルスーツのコックピットに乗ってるようなそんなイメージ。実際にリンゴ掴んで大喜びみたいな(笑)。この人は本物のロボットは見えてなくて、カメラからの映像しか見えてないんだけど。ニュータイプ扱い。そしてりんごを置くことに成功して皆盛り上がっているね。りんご置いただけじゃん、て感じなんだけど(笑)。左にいる方がデンソーにいる匠のロボットエンジニアで、彼がこの動きをロボットにさせるためにプログラミングするとしたら、ものすごい工数がかかったり調整が必要だったりするのに、いきなり初めてこのロボット見た人がやってきて、りんご掴めたっていうだけで、もうすごいインパクトがあるっていうのも本人分かってて。やっぱりAIを単純にゲームに使ったりとか、画像処理で監視カメラに活用したりとかだけでなく、物理的に社会に対して役立つようにしたい。自動運転のようなAIの話も出てきてるから、車はそのうち社会に出てくると思うけど、人にとって人の代わりに作業してくれる身体のあるロボットとして、AIが活用できるようになるかもしれない実感を持ったのが、一番衝撃的で。これはやっぱり世の中変わるなっていうか、それに少し自分が携われている興奮というか。もし、タオル畳んでるだけじゃんとか、あんなのオレが畳んだ方が早いよとか、りんご掴めて何がそんなに嬉しいの?って見えちゃうと、たぶん興奮なんかしないと思うんだけど、その先に来たるべきイノベーションみたいなのにちょっと触れてる感じってのがたまらない。

 

 

最終的にはドラえもん、初音ミク

前田「しつこいけど、鉄腕アトム好きとしてはAIとロボットは組み合ってるのが当たり前だと思ってたんだけど、実は川野がそういうことを始めているのが僕は衝撃を受けたんだけど。」

川野「最終的にはドラえもん作りたいとか、思ってたりする。こんなことを言うと頭おかしいやつと思われるかもだけど(笑)、俺は個人的には初音ミクにリアル身体与えたいっていうそっち側なんだけど(笑)」

前田「はいはいはい!」

会田「バーチャルだったものをちゃんとあの動きをロボットでやりたい?」

川野「ちゃんとこう踊って歌ってくれるリアルミクさん作りたいなっていう風に思ってる。まあ、こういう話始めるとまた頭おかしいとか思われるからあまり言わないようにしてるんだけど」

会田「できればそれをもう少し聞かせて欲しいです(笑)。これは交渉なんですが、今後時々連載コーナーを持っていただいて、麻布流儀のもとでリアル初音ミクプロジェクトの旗振り役でやってくれたら(笑)たぶんいっぱい色んな人が集まるんじゃ?(笑)」

川野「ちょっとキワモノコンテンツな気がするけど(笑)」

前田「よし調子が出てきたから、麻布の話もしていこう!つい先日とあるイベントに別に本当は麻布は関係ないんだけど、麻布OBが三人登場したというイベントがあったんだよね?ベーシックマガジンっていう雑誌のイベントだったんだよね?」

参照/https://basicmagazine.wixsite.com/aabm2018

前田「ちょっと読者の皆さんのために説明しておきますと、『ベーマガ』の愛称で呼ばれていたパソコン雑誌の『マイコンBASICマガジン』は、電波新聞社が1982年から2003年まで刊行していたもので、なんとその編集部に出入りしていた麻布生、僕ら1992卒の同期が中学高校時代になんと3人もいたんですが、その一人が川野だったんです!つい先日、1月14日にALL  ABOUT マイコンBASIC Magazine II』というトークイベントがあったのですが、(この川野氏のインタビューは1月17日)そこで、元読者1100人が集まったイベントがあってそこにその麻布生3人が呼ばれたんです。ちょっと話が逸れたように聞こえるかもしれませんが、このアルバイトの話、ちょっと麻布っぽい(?)ので聞いていきたいと思います!

会田「麻布流儀の立ち上げを考えてた時に、麻布の流儀、スタイルってなんだろうって話を集まった数人でしていて、意外と多かった意見として、みんな『なにかしらコンプレックスを抱えている』って話になったんだよね。麻布から東大、バークレー校でMBA、そして今はインダストリー4.0を引っ張る社長という華々しい経歴!そんな川野の個人的な麻布話が聞きたいです!」

川野「コンプレックスありまくり(笑)。麻布は自由だったからね。うん、だからやっぱり、あの、普通にバイトしまくってても怒られたりしないからそんなに困らなかったっていうか(笑)。やりたいこと、やりたい放題やってて。まあ、親はたぶん超心配してたりとか。最終的に現役時代は受験勉強も殆どしなかったし」

会田「いつからバイト始めたの?」

川野「中2の終わりくらいかな」

*昔の話です、良い子は真似しないでください(笑)

前田「あーなんか麻布時代ひと悶着あったって聞いたことある!バイトからあまりに帰ってこなくてお母さんが乗り込んだっていうの川野だっけ!?」

川野「そうそう(笑)。息子を返してください事案っていうのが、実は自分だった。全然受験勉強もしてなかったし、しかも編集部に入り浸って帰ってこないから、母親が業を煮やして怒鳴り込みに行って、息子を返してくださいって言って。」

会田・前田「すげぇー」

 

ーーーーーーー後編に続くーーーーーーー




前編はここまで!

おまけ動画です!ロボット話で盛り上がっていますが、この後、もっとディープな麻布話へと、、、、





インタビュアー 前田 慎一郎

1992年麻布高校卒業。 日本大学芸術学部映画学科脚本コース卒業。 麻布流儀アートディレクター。 デザイン事務所「ナルーデザイン」並びにワンダフルデイカフェを経営。

 

インタビュアー 会田 高茂

1992年麻布高校卒業。 東京大学工学部建築学科卒業。
麻布流儀ライター。 原宿の美容室du mielを経営。

 

後編、ここからは川野さんの麻布中学高校時代の話を中心に、そこから始まったコンプレックスが今に繋がっているというマル秘話です、笑。閲覧にはメンバー申請が必要です。ぜひ申請のうえご覧ください。

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後編はこちら↓

#2 麻布流儀インタビュー「インダストリー4.0 その最前線で」<後編>