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駅弁の定義を考えてみた

福岡健一
date:2019/7/9

 日本国内では約300の鉄道駅で2200種類以上の駅弁が売られている。2019(平成31)年4月時点での全数調査の結果がまとまり、2213種類の駅弁が確認できたので、前月の投稿より数を増やした。

 私は今世紀に6748個の駅弁を食べてきたが、2213種類の駅弁のうち、まだ食べたことがない駅弁が745種類もある。計算が合わないように見えるが、集計したらこうなった。駅弁も市販の商品であり、新作が各地で毎月のように出ているため、まだ見ぬ駅弁が永遠に存在し続ける。日本中すべての駅弁を食べ尽くすことはできないのである。

 前月に書いたとおり、「駅弁」の定義は確立していない。

 昭和時代には一応の定義があった。やはり日本国有鉄道(国鉄)が1987(昭和62)年4月に分割民営化される前までは、国鉄から構内営業の、つまり駅の中で商売をする許可を受けた業者が販売する、中身に米飯を含む弁当が駅弁であった。すると、神奈川県の大船駅で1899(明治32)年から売られる全国初のサンドイッチ駅弁、現在の「大船軒サンドウヰッチ」は駅弁ではなかったのかという疑問が生まれるが、昔のことは気にしない。1950(昭和25)年頃に福島県の原ノ町駅で、ざるそば、めんつゆ、てんぷらを詰めた駅弁を売ろうとしたが、この規定に抵触するため稲荷寿司を追加し、「いなり天ざる」という駅弁が生まれたと伝わる。

 やはりここには私鉄を含まず、国鉄はもう無くなったので、現在に使える定義でも目安でもない。

 インターネット上で駅弁に関する情報を個人で発信し始めた後に、どんな弁当が駅弁といえるのかを考えた。

 北海道の森駅に「いかめし」という有名な駅弁がある。デパートでの実演販売という、過去になかった駅弁の販売形態を取り入れた先駆者である。今では百貨店で駅弁や北海道の催事があれば、たいてい出店している。会場内でイカにもち米とうるち米を詰めて、醤油とザラメの鍋で煮て、2~3個を箱詰めして販売する。こうして実演販売で売れる個数が、駅で売る個数の数十倍にも達するという。それでもこの「いかめし」は駅弁だろう。手にした商品がもはや、鉄道との接点を失っていたとしても。

 同じ催事場で、厚岸駅の「かきめし」や、旭川駅や釧路駅の海鮮駅弁が売られることもある。これらもきっと、駅弁として買われていく。「かきめし」は乗客の減少や売店の閉店により、北海道厚岸郡厚岸町の現地では駅売り弁当でなく駅前弁当となっているものの、やはり駅弁として買われていく。

 帯広の豚丼や、函館や小樽などの海鮮丼も、同じ場所で同じように作られて売られて買われていくのに、時には見た目も駅弁なのに、これらはどうも駅弁とは思えない。

 駅弁には、駅名が付いてくる。東京のデパートで買っても、北海道は森駅の「いかめし」であり、厚岸駅の「かきめし」であり、駅弁だ。まず駅で売られる弁当であり、そして見た目が駅弁で、加えて駅名が付いてくる弁当こそが、駅弁ではないだろうか。そんな感覚から、駅弁か否かの判断基準を以下の3項目にまとめ、これらをすべて満たす弁当と駅弁だと考えた。私が個人的な範囲で決めた。

1.鉄道の駅で販売される弁当である

2.特徴的な容器や包装や掛紙を使用する

3.弁当に対して特定の駅名がただひとつ定まる

 仙台駅の牛たん弁当、横川駅の峠の釜めし、横浜駅のシウマイ弁当、富山駅のますのすし、宮島口駅のあなごめし。こうやって駅名と弁当名が対になると、実に駅弁らしいし、文句なく駅弁と呼べることだろう。自画自賛となるが、良い定義が見つけられたと思い込んでいる。

 

福岡健一(ふくおか・けんいち)

1973年生まれ。2007年に日本の鉄道全線を完乗したほか、海外20か国以上の鉄道にも乗る。また、2001年から日本全国と海外の駅弁約6600個を食べた。日本全国と海外の駅弁を紹介するウェブサイト「駅弁資料館」館長を務めておりメディア出演多数。

駅弁資料館 http://kfm.sakura.ne.jp/ekiben/