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なぜイトテツがアタカマにいるのか?

麻布流儀編集部
麻布流儀編集部
date:2022/4/6

麻布流儀編集部です。

今回から始まります「いとてつブログ」は今回は編集部が投稿を代行してお送りします。



(以下、ご本人の記述です)





雨が降らないこの土地に、虹がかかっている。僕は初めて見る風景だった。



 こんにちは。いとてつこと、1992(H4)年卒、伊藤哲也です。南米チリの北部、アタカマ砂漠の真ん中で仕事している。これまで出張で来ることは何度もあったが、ついに今年の2月から赴任になった。

 砂漠で何をしているのかというと、電波望遠鏡の運用に携わっている。ここにALMA(アルマ)という国際協力の電波望遠鏡があるのだ。正式名称をAtacama Large Millimer-submillimeter Array (アタカマミリ波サブミリ波干渉計)という。口径7m のパラボラアンテナ12台、口径12m のを54台、合わせて66台のアンテナを組み合わせて、宇宙からの電波を観測し、宇宙の謎を解明しようという国際プロジェクトである。北米、ヨーロッパ、東アジアの各国が参画しており、日本は東アジアのセンターとしての役割を果たしている。その中心は私の勤務先の国立天文台である。国立天文台では約80名がこのプロジェクトに参加しており、うち15名程度がチリで働いている。

 実際に私が働いているのはALMA山麓施設と呼ばれるところだ。山麓といっても、標高2900m である。実際に望遠鏡(アンテナ)が並んでいるのは標高5000m だ。私もこれまで何度も行ったが、この標高になると約0.6気圧と空気が薄く、酸素ボンベを背負って仕事をする。その点、標高2900mならば、最初は動くと息は切れるが、数日もいれば慣れてくる。そこで、ここに保守と運用のための施設を作り、ベースキャンプとして使っている。

 よく間違えられるが、私は研究者ではない。国立天文台の技術者として、ここに派遣されている。大学院には研究者になりたいと思って入ったが、残念ながら7年いて博士号がとれなかった。そして、天文台には技術職員として採用された。ふりかえれば、中学2年の時、麻布の天文部の同期の板橋と、口径45m の電波望遠鏡と10m 5台のアンテナの干渉計があった、野辺山宇宙電波観測所の特別公開に参加したのが、私がここにいる始まりだった。所長の森本雅樹先生の講演を聞いてその変人ぶりに感動し、海部宣男先生の「電波望遠鏡を作る」という野辺山観測所を作った記録を読んで、僕も電波望遠鏡を作りたい、と考えたのが、最初のきっかけである。あれから35年。思えば遠くに来たものだ。

 次回から、ここでの仕事と生活について、少しずつ書いていきたい。どうぞよろしく。