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『病院が地域をデザインする』出版記念 梶原崇弘氏 紙上インタビュー

高橋宏和(H4卒)
date:2024/10/24
『病院が地域をデザインする』出版記念 梶原崇弘氏 紙上インタビュー

2024年6月に『「究極の地域医療」を目指す中小病院の挑戦 病院が地域をデザインする』が出版されました。

著者の医療法人弘仁会理事長の梶原崇弘さん(麻布H4年卒)にインタビューしてきました。

編集部:『病院が地域をデザインする』、ご出版おめでとうございます!読者のかたに向けて、自己紹介をお願いします。

梶原(敬称略)

H4年卒の梶原です。自由には責任がともなうものですが、高校在学中はまだまだ未熟で、麻布の自由の部分だけを満喫してしまいました。今も折に触れ助けてくれる多くの友人に恵まれたことが一番の財産だと思います。

 

編集部:今回出版された『病院が地域をデザインする』に込めた思いとは。

梶原:超高齢化社会・少産多死社会を迎えるなかで、「その人がその人らしくその人の希望する場所で最期を過ごす」ためには「地域包括ケア」の視点で医療・介護・福祉が連携した社会の構築が求められます。しかし、都市部と過疎部など地域ごと異なった背景のもとに画一的な制度を当てはめようとしてもうまくいきません。我々の取り組みは多くの取材をいただきますが、背景や思いを知っていただき活動のヒントになればという思いで今回の出版に至りました。

 

編集部:ご著書の中で、「地域に屋根のない総合病院をつくる」とお書きになっています。「屋根のない総合病院」とは、どういったものでしょうか。

梶原:医療の高度専門化・細分化に伴い、一つの病院ですべての地域ニーズに応えるのには限界があります。地域の開業医の先生方と「顔が見える」を超えた、「人柄や能力のわかる」関係を構築することで地域の名医とともに総体として住民を守る総合病院のような役割を担うことを目指しています。

 

編集部:ご著書では、ご自身の病院のシステムエンジニアを地域のクリニックへ派遣しているエピソードが書かれています。どのような理由でシステムエンジニアの派遣を始められたのでしょうか。

梶原:今回インタビューいただいている、同級生の高橋先生と外来で話をしているときに、「クリニックのシステム修理を毎月頼んでいるけど、お金はかかるけど一向に希望にあった改善が進まない。」という相談をうけました。医療分野のICTコストは費用全体の5%くらいを占めるにもかかわらず、医療の特殊性を理解したSEとマッチングすることは難しく、かつ継ぎ足しで構築されたクリニックなどは秘伝のたれのようなシステムになっていて再構築が困難であるという実態を知りました。治らない修理を繰り返してカモにされているクリニックも多そうだと思ったので、当法人に所属する医療の特殊性を理解しているSEを派遣して、安心できるシステム作りに役立てていただこうと思ってこの企画を始めました。

 

編集部:『病院が地域をデザインする』の中では、板倉病院を「都市型地域密着病院」と位置付けておられます。都市型地域密着病院をマネージメントするお立場から、日本の医療の未来をどうみていらっしゃいますか。

梶原:先述したように、超高齢化社会を迎え医療・介護ニーズはますます高まります。いわゆる団塊の世代がどのように穏やかに終焉を迎えるかが当面の課題になるわけです。

しかし、公定価格で診療を行う医療業界では給与の引き上げも簡単にはできないため、他業種との人材の取り合いで不利になります。そのため、看護・介護人材だけでなく、事務職の人材確保なども非常に困難な状況です。タスクシフト・タスクシェアをしたくてもシフトする人材がいないという未来が現実化しています。ICT活用によるDX推進により業務効率や生産性をあげて地域全体で臨む医療機関だけが生き残れる厳しい環境といえます。

我々は地域の医療機関の役割分担を明確にして、住民の交通整理を行うことで医療アクセスの適正化をはかり、質を担保しつつ安心な医療提供が維持できると思っています。

 

編集部:ご著書では「地域が病院をつくり、病院が地域をつくる」と、地域も一つの大きなテーマになっています。梶原さんは、日本の地域の未来をどうみていらっしゃいますか。

梶原:都市部においては、いわゆる地域コミュニティは希薄化しており、コミュニティによる高齢者の見守りや気付きを得ることは難しくなっています。しかし、民度の低下は否めないものの、当院で行っている「こども食堂」には多くのボランティアが参加してくれているように、個人の単位では思いのある方がまだいると思います。場がなくて行動できていない人も多い印象なので、病院を一つのハブとして地域コミュニティを盛り上げ、人と人とのつながりをサポートしていけば、地域の未来は充実したものになるのではないかと思っています。

 

編集部:最後に『麻布流儀』の読者へのメッセージをお願いします。

梶原:病院という既存の概念を超えて、地域医療をデザインするという取り組みを始められた一因に、麻布中高の自分で考え、判断する習慣があったかもしれません。もしご興味がありましたら、一緒に地域医療を盛り上げていきましょう。いつでも遊びにきてください。

 

編集部:ありがとうございました!









梶原崇弘氏プロフィール(写真左)

1973年千葉県船橋市に生まれる。麻布高等学校卒業後、日本大学医学部医学科入学。 医学部卒業後は肝胆膵・消化器外科医として、高次医療機関にてがん領域を専門に研鑽を行っていた。がん研究センター中央病院肝胆膵外科、日本大学附属板橋病院消化器外科副 医局長を経て、2011年、実家である板倉病院院長就任をきっかけに、地域密着中小病院の 在り方や実現可能な地域包括ケアシステムの構築に軸を移し、安心して過ごせる地域医療を目指している。

 

聞き手:高橋宏和(写真右)

1973年千葉県生まれ。麻布高等学校卒業後、千葉大学医学部入学。脳神経内科として千葉県内外で勤務。2017年千葉県船橋市にある中條医院を継承し理事長就任。