駅弁は全部で何種類あるか
日本国内では約300の鉄道駅で2100種類以上の駅弁が売られている。もし「駅弁は全部で何種類あるか」と聞かれたら、私はこう答える。ここで時々、「4000種類という情報もあるのだが」と、質問に二の矢が飛んでくることがある。その際には、私は約300駅2100種類以上と考えているが、世の中には約4000種類の駅弁があると考える人がいるようだ、と伝えている。数値に倍半分の開きがあるのはどうも怪しいぞ、とまでは言われたことはないが、そう思われることがあるような気がする。
駅弁がいったい何種類あるのか、現時点では誰も分からない。
まず、駅弁を統括する組織や体制がない。
日本国有鉄道(国鉄)が1987(昭和62)年4月に分割民営化される前までは、国鉄の駅で駅弁を売るなど商売を営む業者は「国鉄構内営業中央会」への加盟が必要で、駅弁の販売には個別に国鉄の許可が必要であったため、駅弁の数を集計することができた。例えば1982(昭和57)年1月には「駅弁全線全駅―345駅1564種詳細パーフェクトガイド」という名の本が、主婦と生活社から発行されている。
同会は2019年現在で日本鉄道構内営業中央会と名を変えて存続しているが、現在はここに加盟しなくてもJRの駅で駅弁を売れたり、退会して駅弁を売り続ける駅弁屋もあるため、以前のように数値を集計できない。また、私鉄の駅弁が含まれていない。
そもそも、組織や体制があるかどうかという以前に、「駅弁」の定義そのものが確立していない。辞書には駅で売る弁当が駅弁だ旨の記述があるぞ、駅で売っている弁当、駅売り弁当が駅弁ではないのか、という問いには、駅のコンビニで買えるコンビニ弁当は駅弁といえるのか、と逆に問いかければ話が終わる。駅で買える弁当と「駅弁」は、どうもイコールではないと考えられているようだ。
東京都の新宿駅には「駅弁屋 頂(いただき)」という駅弁売店があり、日本レストランエンタプライズ(現在は子会社の日本ばし大増へ移管)が調製する幕の内弁当が買えて、これは見た目で駅弁だと思う。その売店の目の前に「NewDays」というコンビニがあり、やはり日本レストランエンタプライズが調製する幕の内弁当が買えたが、その見た目はどうみてもコンビニ弁当であった。駅も業者も同じで、内容も味もだいたい同じで、見た目だけでこれは駅弁だ、これは駅弁でない、という高度な判断が必要になる。駅弁を趣味とする者としては、駅弁の定義について大いに迷う。
しかし、駅弁の総数に関する質問は、駅弁を語るうえで避けて通れない。そこで私は2010(平成22)年4月に約1か月かけて、市販の時刻表や鉄道会社などのホームページから調べられる範囲に個人の経験を加味して駅弁の種類を数え、全国に2099種類の駅弁があることを突き止めた。調査には漏れがあるだろうから、実数は「2100種類以上」だと判断した。以後毎年4月に調査を実施し、ほぼ横ばいに近い漸増傾向であることをつかんでいる。2004(平成16)年8月には同様に駅弁販売駅も数えて、これは約300という数を保ちながら漸減している。これが冒頭の「約300駅で2100種類以上」の根拠である。ここにはJR各社以外の駅や駅弁も含んでいる。
ただ、駅弁を約4000種類と数えたい気持ちは解る。
調査により東京駅には約120種類の駅弁がある。しかし、駅弁売店「駅弁屋 祭」には毎日約200種類の駅弁が入荷する。今はエキナカと呼ばれる地下の商店街「グランスタダイニング」では約400種類の弁当が売られ、東京駅に隣接する大丸東京店の地下1階「お弁当ストリート」、いわゆるデパチカでは、1000種類もの商品が並ぶという。
駅弁の定義を少し広げれば、すぐに数値が倍になりそうだ。おいしくて多種多様なデパチカやエキナカの弁当を食べていると、駅弁とそうでない弁当を厳密に区別する必要などないのでは、と考え始めてしまった。
福岡健一(ふくおか・けんいち)
1973年生まれ。2007年に日本の鉄道全線を完乗したほか、海外20か国以上の鉄道にも乗る。また、2001年から日本全国と海外の駅弁約6600個を食べた。日本全国と海外の駅弁を紹介するウェブサイト「駅弁資料館」館長を務めておりメディア出演多数。
駅弁資料館 http://kfm.sakura.ne.jp/ekiben/