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本の時刻表を買う理由

福岡健一
date:2019/6/4

 列車の時刻はスマホが教えてくれる。スマホがなかった時代は、パソコンが教えてくれた。パソコンが普及していなかった時代はどうしていたかというと、駅の係員や旅行会社のスタッフに教えてもらったり、書店で「時刻表」を買ってきて自分で調べたりした。

 今もスマホやパソコンを使わずに、時刻表で列車の時刻を調べることができる。書店や駅の売店に行けば、B5判で約1,100ページ、重さ約1kgで税込み1,183円の「JTB時刻表」か「JR時刻表」を買うことができる。日本全国の電車やバス、飛行機や船の時刻を掲載するこれらの時刻表は、驚くことに新刊が毎月出ている。

 いまどき本の時刻表など買う人は、鉄道ファンに違いない。それも毎月入手するなど、鉄道会社や旅行会社でなければ、重度の鉄道マニアに違いない。そもそも時刻表など使ったことがない。なんか数字ばかりで分厚い本があるけれど、どうやって使うのか。あるいは、これはいったい何の本なのか。そろそろ「時刻表」というものを知らない、見たことがない人が増えてきてもおかしくない。

 私は重度の鉄道マニアと呼べるかは知らないが、かなりの旅行好きであることは間違いないから、ネット上の時刻表も便利に活用する一方で、「JR時刻表」を毎月買っている。1987(昭和62)年4月の実質的な創刊号から約32年分約400冊が、自宅のクローゼット2本を埋める。JR時刻表以外の時刻表もいろいろ持っているので、おそらくもう2本分くらい、合わせて千冊以上はあると思う。

 時刻表なんかネットでタダで見られるのに、手間とお金をかけて本の時刻表を買って使って保管する。そんな無駄なことを好む理由は、本の時刻表は一覧性と記録性に優れるからである。

 例えば、新大阪駅から東京駅まで新幹線に乗る。朝9時発でスマホを頼ると、新大阪駅9時06分発の「のぞみ4号」で東京駅11時33分着、費用は14,450円と答えがすぐに出てくる。

 本の時刻表で調べても、同じ結果は出る。加えて、休日でなければ4分後に新大阪駅始発の「のぞみ218号」があり、その3分後には日によって新大阪駅始発の臨時列車「のぞみ314号」があることも分かる。東海道新幹線には全列車にグリーン車と指定席と自由席があり、さきほどの値段は指定席で、自由席なら940円安いことが調べられる。のぞみ4号は博多駅から広島や岡山を経由して来るので混んでいるかもしれない。じゃあ新大阪駅始発の自由席で行こう。

 本の時刻表の一覧性により、こんな発想ができる。ネット上でこれをやるには、適切な検索条件を設定できる知識と操作が要る。

 では、2年前に新大阪駅から東京駅まで新幹線に乗ったら、どうなるだろう。インターネットでは過去の情報を調べることもできるが、交通機関の時刻に関する限り、そのような情報を提供する場は皆無と考えてよい。2年前の時刻表を持っていれば、新大阪駅9時03分発の「のぞみ4号」で東京駅11時33分着、費用は14,450円と調べることができる。発時刻が3分変わっていた。

 本の時刻表の記録性により、2年前どころか100年以上前の情報にもありつける。しかも過去の時刻表は、書店になく、図書館でも数年で捨ててしまうため、古書店やネットオークションで該当の号が手に入らなければ、東京の国会図書館や埼玉の鉄道博物館のような博物館級の大規模施設に行かなければ閲覧できない。旅を調べるための旅が必要になる。

 そんな理屈で、限られた収納の活用に苦労しながら、時に本の時刻表の利便性を享受している。



福岡健一(ふくおか・けんいち)

1973年生まれ。2007年に日本の鉄道全線を完乗したほか、海外20か国以上の鉄道にも乗る。また、2001年から日本全国と海外の駅弁約6600個を食べた。日本全国と海外の駅弁を紹介するウェブサイト「駅弁資料館」館長を務めておりメディア出演多数。

駅弁資料館 http://kfm.sakura.ne.jp/ekiben/