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いわゆる”脳科学”を批判する(その1)

高橋宏和(H4卒)
date:2025/4/17

photoACより



いわゆる“脳科学”、「最新の脳科学によれば人間とはこうだ」みたいなエセ科学のブームについて、嫌悪感と強い危惧を抱いている。

嫌悪感の理由を述べる。

科学とは健全な懐疑主義に基づき、観察と記録により仮説を打ち立てそれをほかの研究者とともに検証を重ねて少しずつ真実として認められていく、あるいは検証により仮説が否定されたら棄却し次へ進むものだと考えている。この際、仮説は反証可能な形で提示されなければならない。

これに対し一部の“脳科学”では、自分の思いつきや経験談を、科学研究の知見を恣意的につまみぐいし拡大解釈に拡大解釈を重ねて「最新の脳科学ではこうだ」と反証不可能な形で「ご宣託」として押し付ける。

それは科学者として不誠実であろう、というのが“脳科学”に対する嫌悪感の理由だ。

こうした「最新の研究では人間というものはこうだ」という論が、たとえば脳科学評論家とか科学ジャーナリストという肩書きでなされるなら個人的には受け入れる。

“脳科学”ではないが、そうしたスタイルで成功した物書きにマルコム・グラッドウェルがいるが、マルコム・グラッドウェルはあくまで「ジャーナリスト」の肩書きで売っているので「おもしろ科学読み物」として読者はとらえるだろう。

グラッドウェルのスタイルを模倣する物書きはグラッドウェリアンと呼ばれるが、もしグラッドウェリアンが「科学者」の肩書きを印籠にして自分の思いつきレベルのものを「最新の脳科学では人間とはこうだ」みたいに押し付けてきたら、警戒が必要だ。

危惧の理由は、こうしたエセ科学が悪きオカルトの「ゲートウェイドラッグ」の役割を果たすのではないかということだ。

「軽い」違法薬物に手を出すと、一部の人はより「強い」薬物へと進んでしまう。

こうした「強い」薬物への入り口となるドラッグを「ゲートウェイドラッグ」と呼ぶという。

エセ科学を盲信した人の一部が、悪きオカルトやエセ・スピリチュアルに進んでしまうのではないかというのが危惧の理由である。日本ではオウム真理教の例がある。

オカルトもスピリチュアルも、節度を持って楽しむぶんには害が少ないし、時に人生や社会のいろどりにはなると思う。

だが、オカルトやスピリチュアルにどっぷりハマると、抜け出せなくなる。

そうなってからでは遅いので、「ゲートウェイドラッグ」である“脳科学”の段階で警鐘を鳴らしておくべきだと思うのだ。

エセ科学、“脳科学”、オカルトにスピリチュアルは用法容量を守って健全に楽しまないといけない。

付記)

きちんとしたニューロサイエンティストの集まりである日本神経科学学会の指針を下に示す。2の「非侵襲的研究の目的と科学的・社会的意義」を読むと、いわゆる“脳科学”ブームに対して正統な研究者が苦々しく思っていることがわかる。

[神経科学の発展のために] 「ヒト脳機能の非侵襲的研究」の倫理問題等に関する指針(2022版)

https://www.jnss.org/human_ethic?u=27085f6771fe6499dabcee2cc32940df#link_b

『カエル先生・高橋宏和ブログ』2025年3月10日を加筆・修正)