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2017年物理学賞に麻布OBが貢献(前編)

麻布流儀編集部
麻布流儀編集部
date:2018/9/28

LIGOレーザー干渉計重力波検出器の模式図。(新井氏提供)



*LIGOとはなんなのでしょうか?

新井 LIGOとはLaser Interferometer Gravitational-Wave Observatoryの略称で、レーザーを使った重力波検出器です。大まかに言ってL字型をした装置で、「腕」と呼ばれる一辺が4kmの長さになっています。腕にレーザー光を行き来させ、戻ってきた2つのレーザー光を頂点で交わらせます。この干渉光から重力波の影響を読み取ることができます。LIGO計画では米国ワシントン州とルイジアナ州に一台ずつ装置を建設しました。

LIGOハンフォード観測所・ワシントン州/提供:Caltech/MIT/LIGO Lab

LIGOリビングストン観測所・ルイジアナ州/提供:Caltech/MIT/LIGO Lab



「重力波」というのは「時空の歪み」が波として伝わる現象です。アインシュタインが提唱した一般相対性理論では、時空の歪みが重力(万有引力)の起源であると考えます。この歪みが激しく変動すると、その時空の歪みが光速度で伝わる波、つまり重力波になることが1916年にアインシュタインによって示されました。この重力波の影響というのは、どこか1箇所で測定しても現れないのですが、光を使って2点間の距離を測定すると、その距離の変動として現れます。さらにその距離が長ければ長いほど影響が大きく現れます。それが、LIGOで4kmという長大な装置を使用する理由です。

ところがこの「時空」という奴は「非常に硬く」って、ちょっとやそっとでは曲がってくれないのです。人工的な重力波を測定する望みは全くありません。非常に重い物体である、ブラックホールとか中性子星といった超高密度天体からの重力波であれば何とかギリギリ検出できそうです。一方で、この重力波を遮蔽・吸収するものは存在しないため、こういった天体現象で何が起こっているのかを直接的に観測するには、重力波が唯一の手段となります。

この「宇宙からの重力波」を捉える試みは50年ほど行われてきましたが、長いこと何も検出することができませんでした。それはそういう天体をもってしても発生する重力波が小さいからなんです。どれくらい小さいかというと期待できる変化が10のマイナス19乗メートルくらいで、これはどういう量かというと陽子の1万分の1くらいという途轍もない小ささです。これだけの小さな変動を測定するのは容易ではなく、LIGOの初期バージョンでも1億光年先くらいまで見える性能はあったのですが、観測をしても重力波の音沙汰なしでした。

そこで5年の歳月を掛けてアップグレードを施し、10倍以上性能の良いAdvanced LIGO検出器を作りました。この装置を稼働させたところ、ほどなくしてLIGOの2台の検出器に極めて似通った信号が飛び込んできたのです!それが人類初の重力波直接検出の瞬間でした。

LIGOハンフォード検出器でとらえた重力波(上)とLIGOリビングストン検出器でとらえた重力波(下)。提供: Caltech/MIT/LIGO Lab

この波形からブラックホール同士の合体であることが判明しました。それは地球に最初の多細胞生物が出現した頃である約13億光年前に発生し、それが光の速度で伝わってきてこの地球に到達し、そのときにLIGOに生じた微小な変化を捉えたのです

次ページより新井さんが考案した制御方式について