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なぜあんな立派な人がコロナやワクチンの陰謀論にハマるのか(4)~陰謀論は人間の闇の欲望にフィットする&対策

高橋宏和(H4卒)
date:2021/11/17

2020年から始まったコロナ禍で、何人もの人が陰謀論に取りつかれるのを見た。

その中には社会的地位や名誉のある立派な人もいて、なぜあんな立派な人が陰謀論にハマるのだろうかと不思議に思ってきた。

ずっと考えてきて、少しだけ答えが見えた気がする。

 

人間の本質が善か悪は古来から議論されてきた。

まだ社会に染まりきっていない少年たちを無人島に放り出したらどうなるかの思考実験がジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』でありウィリアム・ゴールディング『蝿の王』である。
性善説と性悪説の論争だが、僕自身は「性悪説(しょうわるせつ)」を取る。性悪説(しょうわるせつ)はたしか遠藤周作氏が提唱していた。
 
人間は、放っておいて全てうまくいくほど本質は善ではないが、悪に堕ち切るほどの悪でもない。放っておくと他人をけなしたり意地悪したり見下したりする「性悪(しょうわる)」な、いわば「てんで性悪キューピッド」が人間の本質ではなかろうか。
 
で、陰謀論というのはこの人間の本質にうまくフィットするんですな。
楽して他者をバカにしたいとか、自分だけ世界の真実を知ってる気になりたいとか、そうした人間の「性悪(しょうわる)」なとこにうまく訴求する。
飲んだだけでパワーアップした気になるエナジードリンクみたいなもんで、摂取しただけで生まれ変わった気にさせてくれるんでしょうね、陰謀論。モンスターエナジーパイプラインパンチうめえ。
 
陰謀論を信じて一人心の中で温めているうちはそんなに問題にならないが、陰謀論を振り回してるつもりで陰謀論に振り回されていくと、人生が狂い始める。
「そんなことも知らないのか!早く真実に目覚めてください!」とか周りの人をバカにし始めるともういけない。
「聞いた話だけど、コロナウイルスは熱に弱いから、25度のお湯を飲めばウイルスは死ぬ」とか大真面目に語り出して、だんだんと周囲から切りはなされていく。知人友人に怪しい動画のURLとかおくりまくって残念がられる。
そうやって周囲から孤立して先鋭化して、ますます沼にハマりこむのが陰謀論の怖さだ。
 
コロナウイルスが25度の熱で死ぬなら36度の体温でも死ぬはずだが、「自分だけが世界の真実を知っている立場になって、人々を教え導く立場になりたい」という人間の「性悪(しょうわる)」なところを刺激するのであろう、陰謀論。
だから現役時代に会社とかで偉い立場にいた人が引退後に陰謀論の動画とかにハマるんだろうなあ。
 
人間にはそうした「性悪(しょうわる)」なところがあって、そこをうまくつつくようなコンテンツが溢れている。
その中に陰謀論もあって、いつ自分もそこにハマるかわからないと自覚して生きるのが大事なのでしょうね。
 
このように、陰謀論は、人間の後ろ暗い欲求を刺激する。
「人を見下したい」「物知りぶりたい」「訳知り顔をしたい」「自分だけが真実を知っていて、それを使ってまわりの人をコントロールしたい」、そんな闇の欲望を刺激するからこそ、一部の人は陰謀論に取り込まれてしまうのだ。
 
恐ろしいことに、その闇の欲望は他人事ではない。誰の心にもそうした闇の欲望の芽はあって、多くの人はそれをうまい具合に飼い慣らしているだけだ。
 
僕がそれを自覚したのはコロナ禍のインフォデミックの中だった。
2021年の夏、こんな陰謀論がある、あんな陰謀論があると、古い知人とやりとりをしていた。
彼からもいろいろ情報を寄せてもらっていたのだが、どうも様子がおかしい。もらうメッセージが、次第に過激になっていくのだ。
「陰謀論の奴ら、こんなバカなこと言ってるよ」とか「バカなことを言ってるサイト見つけた!」とか、陰謀論に取り込まれた人をあからさまに嘲笑いこきおろすような文面が増えていき、しまいには毎日のように陰謀論動画のURLを送ってくるようになってしまった。
 
「陰謀論者もアンチ陰謀論者もお互いさま」などと言う気は全然まったく毛頭みじんもない。『喧嘩両成敗』主義は、思考停止をもたらす日本の悪しき風潮だ(参考文献 清水克行『喧嘩両成敗の誕生』講談社選書メチエ。めちゃめちゃ面白いのでおすすめです)
 
だが、我こそ正義なりと正論の刃を振るうときには気をつけなければならない。ダークサイドは、正義のすぐそばにあるかもしれない。
 
*************
 
陰謀論は足湯だ。肩までつかるもんじゃない。
諸外国を見ると全然油断できないが、2021年11月17日朝現在、今のところコロナ第6波は来ていないようで、これも関係者の皆様のご尽力のおかげだと思う。心より感謝の踊りを捧げたい。…踊り?
 
2020年から続くコロナ禍は、陰謀論やインチキ情報ウソ情報、デマに流言飛語との闘いでもある。
歴史の記録のために書いておくが、今まで
 
・コロナウイルスは熱に弱いので26〜27度のお湯を飲むと死滅する(デマ。2020年前半に流布)
・コロナワクチンを打つと5Gに接続する(デマ。2021年に流布)
などのデマが流布した(まとめておきたいのでほかにもデマがあればご指摘ください)。
SNS時代、デマの拡散は速く広く被害も大きく、「インフォデミック」「デマデミック」とまで呼ばれる事態となった。
 
これからもデマや陰謀論はたびたび出てくるはずだ。そんなデマや陰謀論に絡め取られないためには、3つのポイントがある。
 
・「本丸」を守る
・「宙ぶらりん」に耐える
・世間は案外正しい
だ。
 
「本丸」というのはあなたの人生の中心のことだ。
自分自身の心の安寧、家族関係・友人関係、仕事や職場、趣味やライフワークなどなど。
そうした人生の最優先事項は、徹底的に守り抜いたほうがよい。
陰謀論者の悲劇は、そうした最優先事項を陰謀論に振り回されることでズタズタにしてしまうことで起こる。
そうした「本丸」、最優先事項を守れるのならば何の問題もない。
楽しく健やかに「本丸」を守り抜けるのならば、陰謀論を信じたとしても何の問題もない。立派な社会人としてやっていけるのなら、陰謀論も紳士淑女の嗜みといったところだ。
「ご趣味は?」「地球平面説を少々たしなんでおります…」。
 
「宙ぶらりん」に耐える、というのは中西輝政氏の著書『本質を見抜く「考え方」』に出てくる言葉だ。
ものごとというのはそうそう白黒がつくものではない。ましてや人類にとって未知のウイルスとの闘いで、最先端の研究者だってわからないことだらけのタイミングでそう簡単に原因や対処法がわかるわけではない。
安易に結論に飛びついて行動に移したくなるのが人間ではあるが、「わからない」という「宙ぶらりん」に耐えることも必要だ。
調べること考えることが不要という意味では全くない。調べたうえ考えたうえで「今はまだわからないから、『わからない』ということを受け入れて、さらに調べて考え続けよう」という心構えが「宙ぶらりん」に耐える、ということだ。
中西氏が指摘している通り、これには相当の知的訓練が必要ではある。
 
世間というのは案外正しいもので、特にあなたの「本丸」以外ではほとんど場合結構正しい。
あなたの「本丸」がウイルス研究や感染対策である場合にはあなたが正解を知っている可能性は高まるが、あなたの「本丸」が別ならばあわてて陰謀論やデマに飛びつく必要はない。1、2週間〜半年くらい様子見たら何が正しくて何が間違っているかは明らかになる。慌てて陰謀論やデマに飛びつくより、1、2週間様子見て何が正しそうか見てから動くほうが失うものは少ない。
2014年の日本のベストセラーは『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』だったが、いま現在、長生きするためにふくらはぎを揉んでる人がどれだけいるだろうか。
You know,「Given enough eyeballs,all bugs are shallow./十分な目玉があれば、すべてのバグは洗い出される」(リーナスの法則)
 
陰謀論とその対策について思うところを述べた。
陰謀論対策ではよく「科学リテラシーを高めて云々」というが、全ての人が全てのことを知るのは無理だ。
上記の3対策は、悪くないと思う。どうか皆様、くれぐれも陰謀論には気をつけて。

『カエル先生・高橋宏和ブログ』2021年11月17日より加筆修正